#14 寡黙に高みを目指す男 坂口智隆
雨の夜、試合も中止になってしまったので「坂口智隆はなぜあれほどまでにカッコイイのか?」という東京ヤクルトスワローズのファンなら誰しもが考えたことがあるであろう疑問に、真正面から向き合ってみたいと思います(大袈裟)。
そこそこのウソ
いつだったか、IPPON GRAND PRIXという大喜利の番組で「そこそこのウソをついてください」というお題に対し、チュートリアルの徳井義実が女性アイドルの口調を真似しながら「ファンの皆さんのおかげです!」と答え、会場の爆笑をさらっていた。
もちろん、女性アイドルならではの「腹黒さ」というものが笑いの裏にあるのだが、良い悪いは別として、こういうのは野球界にもある。
「ファンの皆さんの声援が後押しになりました」
「明日からも応援よろしくお願いします」
「自分の成績よりもチームが勝ったことが嬉しいです」etc
ヒーローインタビューなどでのこれらのセリフは、言わば「お約束」というやつで、インタビュアーからすれば「はい、これでおしまい」と思えるセリフなのだ。
そしてファンも「これはそこそこのウソだ」とわかっていて拍手を送る。
で、今年は坂口の「そこそこのウソ」と思われる発言をたくさん聞いてきた。
優等生過ぎる坂口の発言集
例えばこれ。チームの攻撃オプションのためにキャンプで一塁守備の特守を受けた後のインタビュー記事。
この記事には無いけれど坂口は一塁守備について「野球人生にプラスになる」「守備の時に必死なので、余計なことを考えないからバッティングにもいい影響が出ている」というような内容のことを語っている。絶対にマイナスなことを言わない。
もちろん「なんで外野でゴールデングラブ賞まで取ったワイがファーストなんかやるんや?」なんてことは絶対に言わない。
そして、サヨナラ打を打ってもこんなことを言う。
いやいや、坂口さんてば。さすがにこれは無いわ。あの時延長11回裏2アウトで、次のバレンティン敬遠されたら、もう代打いませんでしたやん?
「自分で決めたろ!」思ってたでしょ…そう言っても誰も怒らないし納得するよ。
ところがある日、ふとした瞬間に僕は坂口の本当の思いに気がついたのです。
どうですかね?
2018年6月2日対東北楽天戦。この日坂口は同点で迎えた8回に勝ち越しタイムリーを放ち、試合後のヒーローインタビュー受けていた。
2018年6月2日 東京ヤクルト・坂口選手ヒーローインタビュー
「ご自身、3試合連続安打。打率は.337。絶好調ですね!」というアナウンサーに対して、坂口は開口一番少し不機嫌な感じでこう言ったのである。
「どうですかね?」
少し衝撃が走った。この「どうですかね?」にはどんな思いがあるのか。
今日の内容なのか、それとももっと広い意味での自分のバッティングについてなのか。
とにかく坂口が現状に満足していないことは明らかである。
甘んじてこの場所にいて さぁ、高みを目指そう
神宮球場によく行かれる方なら、今年から坂口の登場曲が変わったことにお気づきだろう。leccaのYour Turnという曲だ。
lecca / 「Your Turn」 (Lyric Video) from ALBUM 『前向き』
この曲のサビにこんな歌詞がある。
きみの番が来たら 見せつけてやればいい
その時が来たら 何にだってなれるさ
僕は、てっきりこの曲を使うのは"自分を見限ったオリックスバファローズへの当てつけ、というか「見返してやった」気持ちが強いからだ"と思っていた。
「でも、それなら何故移籍1年目に結果を残したあとすぐに登場曲を変えなかったのか?そもそも登場シーンで使っているのはサビではない。」
曲自体が気に入っていたのでCDを買って、曲をフルで聴いて初めてその答えがわかった。それは2番の歌詞の一節だ。
面白いことにこの世界は one by oneで課題を出すんだ
今の自分に越えられない無理難題は最初から出されない
乗り越えてゆけばいい 一つずつ
実力も無いのに飛び級はしないで
甘んじてこの場所にいて さぁ、高みを目指そう
あぁ、そうだよ。坂口は過去を悔やんだり、ましてや人を恨んだりしていない。
ただひたすらに高みを目指しているのだ。
だから34歳のベテランが泥だらけになって新しい守備位置の練習をし、2年間実績を出したことを嵩にもかけず、今起こっていることの全てを自分が成長するチャンスととらえ、チームのためを思い疑いや迷い無く行動しているのだ。そこに嘘や装飾は無いのだ。
口に出している言葉は、全て本当に思ったことなのだ。
そういえば、坂口はスタンドのファンからの「坂口コール」に対して、立ち止まって本当に深くお辞儀をしてくれる。
神宮はファンとの距離が近いから、自分に人気のあることがわかっていないはずは無い。それでも、常に「ありがとう」と思っていてくれるのだ。
移籍してきた時もこんなこと言ってたよな。
たぶんヤクルトより条件が良かったであろう、そして対戦する投手も見慣れているパ・リーグの西武を選ばなかったのも、大引がいたからだけでなく、本当にゼロから勝負したかったんだろうな。
自分の浅はかさを恥じて、閉じたCDの歌詞カードの表紙には大きく「前向き」と書かれていた。
(ちなみにleccaは今東京都議会議員になっており、東京ヤクルトスワローズの熱心なファンだそうです)
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